蝶ネクタイのペンギンと、コーヒーを。「Pensta CAFE」
Culture

蝶ネクタイのペンギンと、コーヒーを。「Pensta CAFE」

上野「Pensta CAFE」、卒業前夜の一杯

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バナー説明_3

上野駅の改札を抜けて、あえて外に出ないという選択がある。

エキュート上野の3階。発車ベルと構内アナウンスが途切れない駅の真ん中で、天井からひとつの看板が白く発光している。PenstaとCAFEの文字のあいだで、蝶ネクタイを締めたペンギンがトレイにコーヒーカップを載せ、少しだけ胸を張って立っている。

四半世紀近く、改札機にカードをかざすたびに視界の端にいたSuicaのペンギンが、2026年度末をもって「卒業」する。そう聞いてから見上げるその看板は、ただの店名表示ではなく、ひとつの時代の終わりを静かに照らす灯りに見えてくる。

アイスコーヒーと、パニーニと、小さな顔

注文したのはアイスコーヒーとパニーニ。

籐のバスケットに、ペンギンと店名のパターンが刷られた白い紙が敷かれ、その上にクラフト紙に包まれたパニーニが斜めに収まっている。表面には網目の焼き色がくっきりと刻まれ、ところどころに黒い粒が散る。齧ると、香ばしく乾いた外皮が小さく音を立て、中の生地はしっとりと温かい。

そして、パニーニに突き立てられたピックの先には、ペンギンの顔だけがある。黒い丸に、白い目とくちばし。それだけで彼だと分かる。極限まで要素を削ぎ落としてなお成立するこの顔は、グラフィックとしての完成度の高さを雄弁に物語っている。

アイスコーヒーのカップにもペンギンが刷られている。琥珀がかった深い褐色の液体に沈むと、ペンギンは影絵のようにシルエットだけになる。飲み進めるにつれて液面が下がり、氷の隙間から少しずつ白いお腹と蝶ネクタイが姿を現す。最後には、溶けかけた氷と底に残るわずかな琥珀色の上で、トレイを掲げたペンギンがすっかり元どおりに立っている。

一杯を飲み干すことで、ペンギンが現れる。偶然か意図か、この小さな演出に気づいたとき、アイスコーヒーはただの飲み物ではなく、ささやかな絵本の一頁になる。

終わる前に行く、ということ

JR東日本は、2027年3月31日をもってSuicaのペンギンが卒業し、翌日から新しいキャラクターが引き継ぐと発表している。後任の候補はリス、ウサギ、モグラをモチーフにした三案で、11月には結果が発表される予定だ。そしてペンギンの卒業後、Penstaでのグッズ販売も終了すると伝えられている。

入口脇に吊るされたトートバッグには、パフェを囲むペンギンたちと「2nd」の文字が描かれていた。二周年を祝った絵柄が、いまは少し違う意味を帯びて見える。

「いつでも行ける」と思っていた場所は、たいてい、いつの間にか無くなっている。駅ナカの店ならなおさらだ。改装、テナントの入れ替え、ブランドの刷新。駅は常に更新され続ける空間であり、そこに感傷の入り込む余地はない。

だからこそ、残された時間のうちに一度、改札の内側で途中下車をしてほしい。平日の朝か、昼下がりの少し空いた時間帯がいい。アイスコーヒーを一杯頼み、ゆっくりと飲み干して、カップの中にペンギンが立ち上がるのを待つ。自分が初めてSuicaを手にした日のことを、少しだけ思い出しながら。

余白としての駅

私たちは駅を、どこかへ向かうための通過点としてしか扱ってこなかった。けれど、Pensta CAFEで過ごす三十分は、駅そのものが目的地になりうることを教えてくれる。

ペンギンが去ったあとも、改札は変わらず開閉を繰り返すだろう。ただ、ふと思い出すはずだ。かつてこの国の駅には、蝶ネクタイを締め、何も言わずにコーヒーを運んでくれる一羽のペンギンがいたことを。

そして、そのペンギンと、確かに一杯のコーヒーを飲んだことを。