なぜ人は、涼むために、わざわざ怖い思いをしたがるのか。
上野恩賜公園の噴水広場、浴衣姿の家族連れとホラーコスプレの若者が同じ列でかき氷を待っている。輪投げの音の隣で、防音仕様の救急車から絶叫が漏れ聞こえる。仕掛け人は都市伝説系YouTuber「たっくー」。UUUM主催・たっくー全面プロデュースの「上野ゾク夏祭り」は、誰もが知る土地で、誰も見たことのない祭りをやってのけている。
怖い話で涼をとるという発想自体は新しくない。『東海道四谷怪談』が真夏に初演されたのも、百物語が夏の夜長に語り継がれてきたのも、背筋が凍れば体感温度が下がるという、江戸っ子の避暑技術だ。たっくーがやっているのは、その再発明にほかならない。画面越しの怪談を噴水広場という実在の場所に引きずり出したとき、百物語は初めて祭りになる。
縁日とホラーの奇妙な同居ぶりが、この祭りの企みをよく表している。ヨーヨーすくいや盆踊りの隣に呪物展示、屋台には漆黒の和牛焼きそばやゾンビ餃子が並び、清水崇や島田秀平、落語家の林家木久彦までが同じ夜のステージに立つ。推定400歳のマスコット「ガシャまる」は骸骨のくせにどこか愛嬌があり、怖さと親しみのあいだに線を引かない。怖いのが苦手な人のための余白も忘れず、専用更衣室や配慮つきの上映プログラムが用意されている。
涼むために怖がる、という江戸から続く逆説的な知恵は、YouTuberという令和の語り部を得て、上野の夜にもう一度火を灯した。会期は明日、9月23日まで。